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【第8章】中小企業はどういう舵取りが必要なのか


まず、図8-1-1を見ていただきたい。


この図は大企業と中小企業の今までとこれからをあらわしたものだ。
大企業は今までもこれからもあまり変わらない。大型タンカーが
荒波を突き進む。ただし、最近ではそんな大型タンカーが
転覆するくらいの荒波が押し寄せることもある。
一方で、中小企業の場合はどうか?小型船である中小企業は
プラットフォームという共同体で荒波に立ち向かうのが
これからのやり方ではないだろうか。この10年を振り返ると、
中小企業にとって海原は大時化の状況が続いた。
大企業でも危うい状況だったのだから、中小企業はひとたまりもない。
そもそも、中小企業は多少の波でも船が大きく揺れてしまう。
だからこそ、プラットフォームの概念なのだ。例えば、東南アジアを中心に
中小企業向け工業団地が数多く登場している。
これも、中小企業の活用すべきプラットフォームの一例である。


荒波を行く小型船である中小企業だが、大企業には真似のできない
「強み」を持つことで世界でも類を見ないほどの存在感を発揮する中小企業が
日本にはたくさんある。町工場が新幹線の最新テクノロジーを支える部品を
提供しているのは、日本であれば枚挙に暇がない。日本の戦後復興と
経済発展を支えた中小企業の底力は、世界の羨望の対象でもある。
そして、なによりも経営者の存在感も中小企業の最大の特徴といってもよい。
その経営者が技術力をよりどころに、即断即決のスピード力で事業領域を
切り拓いていく姿こそ、強靭な中小企業像である。私たちは創業以来、
数多くの中小企業の経営支援を手掛けてきた。
このような中小企業像はたんなる理想ではない。
実際に、技術とスピードに長けた企業は多い。


アジア進出支援の現場においても、その例は顕著にあらわれる。
日本の大企業を中心にアジア各国へのビジネス視察が頻繁に行われる。
しかし、視察は視察であり、そこでビジネスにおける
なにかを決めることはほぼない。日本の本社に戻り、数ヶ月の稟議を経て、
結果として「やらない」という判断が下される。
こんな日本の大企業の姿を見て、現地の経営者たちは
「NATO(ノー・アクション・トーキング・オンリー)」と揶揄する。
これでは、中国、韓国をはじめとした世界レベルのスピードについていけない。
かつてのサッカー日本代表がそうであったように、世界レベルで戦うには
「なにか」が足りないのだ。


日本国内を見ても同様であろう。大企業は大企業としての、商売としての
ロジックを持っており、そこから大きく逸脱する勝負は極力避けたい。
これは仕方がないことである。


すでに書いたが、中小企業の強みは、「アナログ力」だ。残念ながら、
今の大企業の多くは仕事を受け渡すことはできても、現場に入って
切りまわす力が不足していると言われている。
「現場力」コンサルで有名な遠藤功氏(ローランドベルガー日本法人会長)も
「戦略2割、実行8割」と言う。戦略を立てたならば、実行に全力を注ぐことが
大切だと説く。ところが、大企業の多くは戦略を立てることばかりに
エネルギーを使っている。ここに中小企業の勝つチャンスが潜んでいる。


海外進出においても、中小企業が大企業をスピードで凌駕することは可能だろう。
中小企業向けの海外進出プラットフォームを活用するのもひとつの方法だ。
中小企業向けの工業団地への入居を検討したり、国内外を通じて利用できる
ICT活用プラットフォームを使えば、チャンスは大きく広がる。


中小企業は大企業の下請け構造のもとで生き残ってきた歴史があるかもしれない。
しかし、これからの将来、その培ってきた技術やノウハウをどのように生かすかは
経営者の意志に委ねられている。
ICTは、そのような中小企業にとって「ターボエンジン」のような役割を
果たすのではないだろうか。


図8-1-2をご覧いただきたい。ここに、これからの中小企業に必要な
具体的な舵取りをまとめている。多くの企業が①か、④の位置づけにあると
認識している。①のカテゴリーの企業はとことんアナログ力で
勝ち残ってきたに違いない。今後、さらに勝ち抜いていくためには
ICT活用力を身につけることが急務である。目指すべきところは③なのだ。
今の時代、ITサービス会社に乗せられて②から④に変身した企業もあるはずだ。
ICT系ベンチャーや若手経営者もここにあてはまるだろう。
アナログ力を強化し、ICTとアナログ力のバランスがとれた③の状態へと
変身を遂げるためには、組織改革、社員の意識改革、社員研修の実行が不可欠になる。

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(近藤 昇 著 2015年9月30日発刊
ICTとアナログ力を駆使して中小企業を変革する
第8章 中小のアナログ力が際立つ時代の到来-中小企業はどういう舵取りが必要なのか より転載)