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【提言24】『全自動洗濯機』がなくても『洗濯』ができますか?


日本だけで生活をしていると、ついつい麻痺してくるが、
こんな便利すぎる国は他にないとつくづく実感する。
私が社会に出てからのこの30 年間で、ビジネスや生活の
あらゆるものが自動化されてきた。子供の頃からすれば、
電車にICカード1枚で乗車できることなど、
夢のようで考えられないことだ。


この数十年におけるICT技術の進化に関するものだけでも
枚挙に暇がない。特にスマホは代表例。便利といえば便利だし、
私自身もスマホ生活にどっぷり浸かっている。


今の時代、先進国の大都市であればこの利便性はどこも
似たり寄ったりだろう。世界の中でも日本のそれは
群を抜いていると思える。日本を初めて訪れる人の感想と印象を聞けば
すぐ理解できる。「美しい、優しい、綺麗、便利」である。
彼らの日本の良さを語る中に必ず登場する言葉が「便利」だ。
私は便利と褒められても必ずしも嬉しくはない。
日本人の異常なまでの便利さへの要求がこの国の利便性に対する
飽くなき追及を生み出している。日本人は海外経験がなくても、
日本が便利な国であることは理解している。このままでは、
なんとなく良くないことも理解はしている。便利さを追求し、
資源の無駄遣いも実感している。それに加えて衛生的すぎる
日本の弱点も今や大抵の人が心配していることのひとつだ。
だが、変化を嫌う日本人、本音をはっきり言わない日本人、
右へ倣えの日本人である。付和雷同型の日本人だからこそ、
わかっていても誰も声高には叫ばない。
日本人らしく、わかっていてもそのまま流されていくだけだ。
「ICT革命」と世間でも騒ぎ出している。そろそろ、
田舎のおじいちゃんたちにも浸透する頃にきているか。
実際にICTが見えないところで人々のいたるところに
入り込んできたようだ。ますます生活環境における自動化は
加速するだろう。必要な人にとっての自動化は大歓迎である。


一方、そうでないことも多すぎる。
私は、たまたま農家出身だったこともあり、小学生ぐらいの時から
洗濯は自分でしていた。というよりも、させれられていただけであるが・・・。
今から約40年以上前の洗濯機は、脱水機はなく手でローラーを回して、
それに洗濯物をはさんで脱水していた。洗濯で何が嫌だったかといえば、
寒い冬の日の作業だ。今みたいに屋内にはない。吹きさらしの中、
凍るような冷たい水で洗濯していたのを昨日のことのように思い出す。
そんな傍ら、洗濯機では落ちないような農作業の土の汚れなどは
母親が井戸水で手洗いで洗っていた。そんな光景は現代においても
地球規模で見れば世界の至るところに存在する。
アジアやアフリカの農村がそうだ。
全自動洗濯機は水道と電気がないと稼働しないのであるから
普及している訳がない。まだまだ電気がない地域はたくさんあり、
全自動でなくても電化製品すら使えない。世界の人口のうち、
いったい何割の人が電気を使える生活環境にあるのだろうか?
そんなことをよく考える。


洗濯機の事例を出したが、これと似たようなことは世界中に転がっている。
つまり、全自動洗濯機でしか洗濯したことがない今の若者は、
今のそれに比べたら操作が複雑な20年ぐらい前の普通の洗濯機ですら
使えないかもしれない。当然、手洗いなどはできないだろう。
もっとも、日本国内で手洗いが必要になるときは大災害が
発生したときくらいであるが・・・。便利すぎると、本来は人間が
できていたことができなくなるのである。自動化は便利な反面、
人間を退化させる諸刃の剣ともいえる。


先進国の日本が、世界に通用するイノベーションを起こすには、
便利すぎる国で生活していることはとても不利である。
私のおすすめの本のひとつが
イノベーションは新興国に学べ」(日本経済新聞社)だ。



この本の冒頭部分に『電気を使わない冷蔵庫・ミティクール』の話が
登場する。5億人以上が電気のない生活をしているインドの発明家の話である。
土で作り、水をしみこませることによって気化熱で周囲より温度が下がる。
こんな仕組みのようだ。ミティとはインド語で「土」を意味する。
アフリカまでいかずとも、蚊帳で生活している人も数多くいる。
日本で見ることはなくなったが、ハエ取り紙のビジネスが
いくらでも成功しそうな場所はある。


かつて日本で活躍した製品が再び脚光を浴びるステージは
いくらでも存在する。これはちょうど、BOPビジネスの領域と
重なる部分が多い。一昔前までは、NGOやNPOが主役の領域だったが、
今はBOPビジネスも世界のいたるところで広がりつつある。
すでに主流のビジネスとして認知され始めているのだ。
一方、ICTが世界中で普及する時代でもある。
驚くべきスピードで広がっている。上手にICTと絡めていくと
BOP分野のイノベーシヨンも爆発的に増えるだろう。
あらゆるものが自動化されつつある世界でのICT活用と、
ほとんどが手動的な場所でのICT活用。
これを比較研究していきたいと考えている。
私達がアフリカのルワンダにICT拠点を設立したのは、
これが最大の目的である。


最後にもうひとつ付け加えたい。
私の体験において最も変化を感じている電話についてである。
もちろん、メールも含まれた通信手段のことを指しているが、
私が働き出した頃は、携帯電話は存在していなかった。
今や化石的存在となった「ポケベル」を長年使っていた。
基本は、オフィスの電話か公衆電話。名刺入れにはテレホンカードが
常に常備されていた。今はどこにいても世界中で仕事の相手と
連絡が取れる。何が便利になって何が退化したか?


私は便利になったと感じているひとりではあるが、その反面、
人間の仕事スキルの退化が続いていると思っている。
コミュニケーションスキルの低下、段取り力の退化などが顕著だ。
駅での待ち合わせひとつで考えてみてもわかりやすい。
遅れそうになっても、昔は連絡の取り様がなかった。
また、オフィスを出るまでにすべての準備を済ませないと、
あとで、あれこれ補足はできなかったのである。
今は、電車の移動中でもフォローができる。
私も実際そうすることも多い。


これから先、AIが仕事の現場に登場し、ICTの自動的な
アシスタントが当たり前になっていくだろう。
だが、絶対に失ってはいけないのが、人間らしいコミニケーションの
スキルであり、相手への思いやりである。特に海外からはその点が
日本に対しても期待されている。いつまでも、人のことを慮り、
チームワークを重視する。空気を読める日本人と仕事したい人が
多いのだ。起こりうる自動化の弊害も知っていて、
それを克服することは仕事スキルとしてこれからのICT時代、
特に必要である。これを私は『アナログ力』と呼んでいる。

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(近藤 昇 著 2016年10月15日発刊
もし、自分の会社の社長がAIだったら?
PARTⅢ 日本人への提言-【提言24】『全自動洗濯機』がなくても『洗濯』ができますか? より転載)