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知られざるメコンデルタの有力地方都市カントー市をICTの集積地へ

7月上旬、ICT関連企業の友人たちとカントー市を訪れた。
カントーはベトナム南部に位置するメコンデルタの中心都市であり、
人口は約120万人。
メコン川に隣接するカントー市はホーチミンから南西約160キロに位置する。
チベット高原を源流とするメコン川は、中国雲南省を経て、
ベトナムでは9つに分かれ、それゆえ九龍川(クーロン川)とも呼ばれている。
カントー市はその最大の支流ハウザン川の南西岸にある。
ハウザン川は農村部と都市部を結ぶ水運の中心となっており、
人々の水上マーケットでの生活風景は見る者に「生きることとは何か?」
を改めて教えてくれる。カントーは日本人にとっては知られざる地方都市であるが、
弊社は縁があって、支店を開設している。
カントーVCCI(ベトナム商工会議所)の日本側のカウンターパートを担い、
昨年から日越経済文化交流促進のサポートもしている。
その一環で、昨年は第1回目の「日越文化・経済交流フェスティバルinカントー」を
11月に開催した。今年は第2回目として11月11日~13日に開催予定だ。20160718_1_1 20160718_1_2

私が、初めてカントーに訪れたのは今から約6年前のことになる。
仲の良いベトナム人の友人に誘われて、カントーに初めて行った時の印象は
今でも鮮明に記憶に残っている。
まだ、ホーチミンからミトーまでのハイウェイもなかった頃である。
車で4時間以上はかかった。
カントー市に入る寸前に、突如として巨大なカントー橋が目に飛び込んできた。

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日本のODAで建設した橋だが、日本の土木技術の粋を結集して建設した橋の雄姿に感動した。
日本人にとって、このような建造物は貢献が実感でき、特に感慨深い。
メコン川に架かるこの巨大な橋を超えるとカントー市に入る。

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カントーは、メコンの近隣で言えば、隣国カンボジアの首都プノンペンと雰囲気が似ている。
2つの都市ともにメコン川に隣接しているし、生活様式がとても似ていると感じている。
このあたりは、国の違いよりも、気候風土の違いの方が人の気質や生活様式に対する
影響が大きい。
カンボジアとベトナムの2つの国は、遠い日本からの印象では
まったく違う国のような印象があるが、メコン流域の2つの都市という観点で見れば、
よく似ているのである。
人口も似通っている2つの都市を比べるとカントーの未来の姿が見えてくる。
メコン川下りツアーを企画したいと思い始めてはや10年が経つ。
来年ぐらいには、プノンペンから水路でカントーまでの船旅を体験したいものだ。
私見を述べさせてもらえば、今のカントーは10年以上前のプノンペンに似ている。
その頃のプノンペンは高層ビルがようやくひとつ、ふたつ建設が始まったばかりだった。
その後、リーマンショックを経て、今やプノンペンは空前の建設ラッシュに沸いている。
建設インフラが一旦整いだすと、一気に街の見た目は変わる。
地元の生活にはさほど変化はないのだが、大抵の人は建設物の変化で都市化を感じる。
現時点ではカントーに高層ビルの建設の気配はまだない。
しかし、今回のカントー訪問では、その胎動を感じとることができた。
きっと、都市化は来年か再来年ぐらいに始まるだろう。

それはビンコムセンターが進出しているからだ。
ホーチミン、ハノイなどの巨大都市に展開している大型商業施設である
ビンコムセンターがこの9月にオープン予定だ。
現在、急ピッチで建設が進んでいる。
すでにコープマートなどはあったが、ビンコムセンターがオープンするとなると
都会化は加速するだろう。

今回の訪問の主目的は、11月に行う2回目の
「日越文化・経済交流フェスティバルinカントー」の打ち合わせだ。
それに併せてVCCIとカントー大学、そして現地のICTベンチャー企業などを訪問した。
VCCIでは旧交を温めつつ、いつも以上に豪華なレストランでの夕食に
二次会のカラオケと歓待を受けた。
「今年もたくさん日本人を呼んできて欲しい」と無言のプレッシャーをヒシヒシと感じる。
期待されていることは大きい。

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「日本人や日本企業にたくさん来て欲しい」

こんな声は、今やベトナムのあちこちの地方都市でもよく聞く。
しかし、なかなかカントーまで出向く日本人は少ない。
実はビジネスの将来性でも人材の宝庫という意味でもカントーの魅力は数多い。
その中でも特に人材の宝庫であるカントー大学は卓越している。
カントー大学はベトナムの地方大学としては最大の国立大学である。
水産、農業、工業、情報工学など13学部を擁しており、学生数は約4万人にのぼる。
ちょうど昨年が開校50周年にあたる。
キャンパスにはメコンエリアの13省からの記念植樹が植えられており、
メコンデルタを代表する大学であることを実感する。

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副学長との面会で、カントー大学の魅力と強みを色々と教えていただいた。
日本の大学とも連携しており、その繋がりも強固である。
さまざまなイノベーションの創出も期待できそう。
副学長はベトナムのどこよりも早く、ITを導入したと特に力説された。
実際、案内された図書館は、日本の大学と見間違うほどの設備だ。
バソコンは400台が常設。
赤で統一された椅子とのコントラストが抜群に良く、学習意欲をかき立てられそうだ。
本の貸し出しも、もちろんICTを活用し、管理されている。

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メコンデルタ地域の主要産業は、農業、水産業などの第一次産業だ。
そして、食品加工や肥料メーカーなどの製造業がそれに続く。
人材の宝庫でありながら、ICT産業はホーチミンやハノイが本場であり、
カントーでは、まだまだ未成熟である。
しかし、それは今現在のこと。
将来の可能性はとてつもなく大きいと感じる。
すでにベトナムトップのICT企業であるFPTがカントーでも積極的に
人材教育・活用を狙って、活動を開始しているという。

また、午後に訪れたICTベンチャー企業の社長はとても期待が持てる人物である。
日程が合わず、香港からのスカイプ会議ではあったが、
日本人のサポートを受けて設立したこのICT会社はとても礼儀正しい。
社長はカントーの街をICT産業の集積地にしたいと熱く語る。

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私はすでに何回もカントーは訪れていて、カントー支店も開設している。
弊社としては、年内にはJPS(ジャパンスタイル)レストランをオープンする予定で、
段階的に日本企業の誘致や日本人の訪問増につなげていけたらと活動している。

そんな中、今回の訪問で強く感じたことのひとつは現地におけるICTビジネスの胎動だ。
こういう未開の場所でICTビジネスはどうあるべきなのだろうか?
ひとつは、他の国でもそうであるようにオーソドックスに雇用の創出であろう。
そして、若手起業家の成長のためのオフショア開発は有望であろう。
弊社は、約20年前にホーチミンでICTビジネスをスタートさせた。
その経験からすると、地方都市であるカントーはICT人材の宝庫であると確信している。

だが、今回特に実感したことは、現地の地場産業の発展や人材育成の機会として、
ICT活用が地元の有力者の視野に入ってきたということだ。
お付き合いの長い、VCCIカントーのユン所長が

「農業や水産業にICT活用を考えている。その領域で日本と組みたい」

このように力説されたことに正直驚いた。
長いお付き合いの中で、なんどもICTについても議論の中にはあったが、
今回ほど本気度を感じたことはない。
第一次産業の発展は、工業化に並ぶぐらいのベトナムの重要な課題である。
これも最近のベトナム人経営者の共通認識となってきている。
そして、第一次産業が中心であるがゆえに地球温暖化対策への問題意識も高い。
だからこそ、農業だけではなく、環境対策にもICTを活用したいと述べる。
この分野で日本と組みたいと言う。
日本人としては、ここまで期待されるととても嬉しい話なのである。

私は、日頃「水牛とスマートフォン」の話をセミナーなどの機会ですることが多い。
もちろん、日本には最先端ICTは存在する。
しかし、水牛の環境、つまり現場がないのだ。
カントーで日本がこれから期待されることは「水牛とスマートフォン」の感覚で、
ビジネスを具体化していくことだろう。
そのためにも日本が水牛の現場に出ていかなければ、何も始まらない。

今回のカントー訪問では農業の発展や環境対策を目的とした
地元産業の創出のためのICT活用がトリガーになり、
将来のICT集積都市になりえる予感がした。
そして、カントー大学との連携による産官学のビジネスモデルを
生み出せる可能性も感じた。

今年の11月のイベントには、日本のICT企業の参画を大いに期待したいし、
そういう働きかけを全力で行っていこうと思う。

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