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【第4章】ペーパーレスでどこまでできるか


これまでに、電子書籍を例に紙の書籍が消えてなくなることは
ないと説明してきた。ここで、ペーパーレスについて考えてみる。


いつの時代も企業経営において文書管理の問題がつきまとう。
企業経営を続けるということは、それだけ文書が増える
ということでもある。文書の保管スペース不足で事務所内が
紙文書であふれかえっている企業も多い。
貸借対照表、損益計算書、総勘定元帳などは、
会社で10年間の保存が義務づけられている。
その他にも法的に保存年数が定められた文書がある。


そこで必要となるのがペーパーレス化だ。
紙の資料を閲覧したり、共有したり、保管するのをやめて
電子化するという取り組みだ。紙にかかる経費の削減や
資源の無駄の排除、副次的には環境問題への取り組みを目的に
ペーパーレス化に取り組む企業が出てきている。
その背景には、PCの普及により電子ファイルの閲覧、
共有がしやすくなったこと、複合機の普及などで、
紙をスキャンして電子ファイル化しやすくなったということがある。


また、1998年7月に施行された電子帳簿保存法や
2005年4月に施行されたe -文書法(電子文書法)により、
電子文書での保存が認められたという法的な側面もある。


例えば、会議で配布される会議資料は、多くの場合は会議での
説明や報告に関する資料であるが、そのペーパーレス化はいとも
簡単にできる。会議の参加者全員がPCを持ち込んで
会議ができるようにするか、そうでなければ液晶の大画面に
PCの画面を映し出せばよい。複数拠点での会議や海外との会議なども
テレビ会議を用いれば、資料と会議の参加者双方を映し出すことができる。
どうしても会議資料にメモをする必要があるのであれば、
事前に電子メールなどで送信しておいて、必要な人だけが
紙に出力して会議に参加する形式にすれば解決する。


稟議文書であれば、ワークフロー化すればよい。
これまでに何度か説明しているとおり、クラウドサービスを利用すれば、
ワークフローはいとも簡単に実現できる。
「平成27年度税制改正大綱」が閣議決定されたことにより、
電子データ化の範囲が広がる動きがある。そうなれば、ワークフロー上で
経費精算業務を行うことの利便性にはおおいに期待できるであろう。


当社は『文書管理の基礎知識』(2009 年4月・カナリア書房)という
研修テキストを過去に発刊している。
そこには文書管理の基礎を説明しているが、ペーパーレス化において
も取り組み方法は共通部分が多いことを述べている。
ペーパーレス化するにしても、紙の文書管理同様ペーパーレス化ルールの制定と
運用が必要だ。ルールとしては、組織として保有すべき電子データを確定し、
保存する場所を定め、関係者が共有できるようアクセス管理を行うのだ。
それさえできれば、ほとんどの文書はペーパーレス化できる。
しかし、電子化すればするほど、情報セキュリティリスクが高まるということは
忘れないでもらいたい。


日本政府は「IT基本戦略」(2000年11月、IT戦略会議決定)を
皮切りに、電子政府を推進している。国連の電子政府ランキングで
ここ数年1位である韓国に追いつき、追い越せと旗を勢いよく振っている。
しかし、よく考えてほしい。住民票をインターネットで申請できることは
確かに便利かもしれない。例えば、印鑑証明や住民票が頻繁に必要になる
経営者は、その利便性を享受できるだろう。
しかし、そうでなければ、住民票が必要になることは滅多にないはずだ。
電子政府にかけている予算と住民ひとりひとりが享受できる利便性、
費用対効果がどれぐらいあるのだろうか。
いくら住民の利便性を高めるとはいえ、考える必要があるのではないか。

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(近藤 昇 著 2015年9月30日発刊
ICTとアナログ力を駆使して中小企業を変革する
 第4章 今どきのICT活用の実際-ペーパーレスでどこまでできるか より転載)