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【第5章】選んであげる目利きサービスの時代


ここまですでに述べてきたように、いまや情報があふれている時代だ。
とはいえ、日本は先進諸国の中で比べると、実はPCやスマホの普及率が
意外と低い。シンガポールや韓国ではスマートフォンの普及率は
約9割に達するが、日本は意外にも約6割だ(総務省「平成26年度情報通信白書」より)。


だからといって、日本人が他国と比べて情報に接する頻度が少ないかといえば、
さにあらず。従来のPC に加え、タブレット、スマートフォンと小型端末への
情報発信の最適化を得意とする日本では他国以上に、情報がさまざまな
デバイスに分散される。それにより、ユーザーは快適に、いつでもどこでも、
情報に接することができるようになった。


このことは、技術進化の側から見れば、喜ばしくもあり、
誇らしい日本企業の底力といえよう。しかし、情報に接する
人間側の立場から考えれば、「行きすぎた利便性」を感じずにいられない。


例えば、レストラン情報にアクセスすると驚く。
ランキングページがあるのだが、その詳細を知りたければ、
有料会員に登録する必要がある。なるほど、お金を支払ってでも
ランキング情報を知りたいというニーズがあるわけである。
就職活動も同様である。業界ごとの会社ランキングを誰もが知りたがる。
その情報にせっせとアクセスし、気づけば、多くのサイトに
自分の個人情報を差し出している。


インターネット上の情報を収集、整理し、再編集することで、
新しいコンテンツを生み出すキュレーションメディアという
新たなコンテンツビジネスが注目されている。
まさに人間の「知りたい」という欲求をうまく突いている。
ネット上の情報を再編集し、新たなコンテンツとしての価値を生み出す。
こう書くと、とても美しいビジネスの構図を思い浮かべるが、
要は「探すのが面倒なので、自分の嗜好にあった情報を送って」
というサービスに過ぎない。
そう、なんとなく買い物代行サービスにも似ている。
ただ、情報を自動的に振り分けているだけに過ぎない。


情報がほしいが、情報が多すぎて自分自身では見つける時間がない。
これが、現代人の情報との距離感だと思う。
あの孫子も「百金惜しみて敵の情を知らざる者は不仁の至り」と説く。
つまり、情報収集にお金を出し惜しむなということである。
キュレーションメディアのように、自動的に振り分けるのではなく。
誰かが「目利き」をしてほしい。キュレーションメディアの先には、
このようなアナログ力でニーズを汲み取る課題が浮き彫りになるだろう。
例えば、日本全国の都道府県、市町村から自社が欲する入札情報を
キュレーションできるか。キーワードなどの検索条件である程度まで
スクリーニングはできるであろうが、最後はアナログで人間が
チェックする必要がある。


結局、たどり着くのは「人」だと実感する。昔は人から伝わる話が
もっとも信憑性があった。近所の歯医者の情報は周辺に住む主婦が
もっともよく知っている。そんな身近な目利きがたくさん存在していた。
わかりやすい例が書店だ。昔は街の小さな書店がそういう目利きの
役割を果たしていた。主人が自分の目で選別し、客に勧める。
そういう書店がなくなったと言われて久しいが、私がよく利用する
品川駅の新幹線乗り場に向かう途中の小さな書店は少し違う。
その書店はビジネス客の嗜好性にあわせた書籍を選別して販売している。
まさに、現代に残る目利きサービスの代表例だろう。
キュレーションはあくまでパラメーターを使用してICTが選別を
代行しているに過ぎない。それがメディアの世界に浸透し、
いつしか氾濫する情報社会の整理役を務めるようになった。
しかし、人間が本当に求めているものはそんな無機質な世界ではない。
佐渡金山で砂金をすくいあげていたのが人間であるのと同じように、
価値ある情報は人間の目を通して届けられることを忘れてはならない。

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(近藤 昇 著 2015年9月30日発刊
ICTとアナログ力を駆使して中小企業を変革する
 第5章 エスカレートする情報過多と溺れる人間-選んであげる目利きサービスの時代 より転載)