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【提言20】必要なものを売る商売と余計なものを売る商売


商売には私が思うに2つの種類がある。
顧客に「必要なものを売る商売」と「余計なものを売る商売」。
今の日本は後者が多すぎる。「人口減=顧客減」の日本ではますます拍車がかかる。
あまりに度が過ぎると「日本はこれでよいのか」と心配になる。
余計なものを売るということは余計なものが氾濫し、使われないままタンスや
倉庫に放置され、最後は地球のゴミとなる。物事には限度があって然るべきだが、
残念なことに先進国で豊かな日本は、随分前から余計なものや無駄なものが
溢れる社会になってしまった。もちろん、中古となってアジアやアフリカにおいて
現地の生活に貢献していることもあり、すべてが悪いといいたいわけではない。
しかし、それにしても日本の今の商売は企業がしつこ過ぎるぐらいに
余計なものを売り続けている。私の幼少期は「もったいない」が
身近に存在していたが、今となっては懐かしい話なのだろう。


一方、新興国や発展途上国中心のアフリカやアジアは必要なものを売る商売が
全盛である。これが商売の原点であると思うし、何よりビジネスに後ろめたさもない。
もしかして、顧客を騙しているのではないかと良心の呵責に悩む必要もない。
ビジネスがシンプルで、良いモノが売れる。役に立つものが売れるだけだ。
余計な策も弄しないし、商売も楽しい。仕事をしていて顧客の喜びを
感じられる比重が日本よりも遥かに大きいのである。
美味しいものを提供して喜ばれ、少し品質の良いものを提供して喜ばれる。
こんなビジネスの楽しい場所が地球にはまだまだたくさんある。

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例えば、日本ではほとんど使われなくなったハエ取り紙。
若い人は見たことすらないだろう。しかし、かつての日本でも大活躍した商品だ。
私の子どもの頃は、農家であったこともあり、身近にハエは当たり前のごとく
存在した。台所中心にハエ取り紙が常にぶら下がっていた光景を思い出す。
ハエ取り紙がぶら下がっている姿を見ると子どもの頃の記憶が蘇ってくる。
そんなハエ取り紙は今も日本で製造しているメーカーがある。
誰が考えても日本国内市場は限りなく小さい。


実は東南アジアへの行き来が始まった約20年前から私は
『ハエ取り紙ビジネス』の可能性は感じていた。
ただ、不思議なことにあれから時間は相当経過しているのに、
いまだに東南アジアにハエ取り紙があまり見当たらないし、
ビジネスをしている話も聞いたことがない。
これだけ日本の昔と似ていながら、なぜなのか改めて考えてみた。
これらの国は都会でも日本に比べたらまだまだ不衛生だ。
とはいえ、田舎に行けば、日本の昔とそっくりの生活環境がそこにある。
まさしく私がアジアセミナーで必ず話をする「ごはんにハエ」の環境だ。
東南アジアの田舎は私が子供の頃に眺めた風景と似ている。
今の日本から見るととても不衛生に感じるが、彼らは、実は私が思うほどには
不衛生さを気にしていないのだろうか?
それとも、ハエ取り紙ですらコストが合わないのか?
そういう商売を誰も思いつかない?
実は私が知らないだけで、すでにメーカーも現地にあって当たり前に
使われているのかも?


考えだしたらきりがないが、今のところは日本の昔と違ってハエ取り紙は
現地の生活者にとって必要なものではないのかもしれない。
しかし、段階的に衛生的な環境に改善が進むだろうことは予想され、
そうなれば間違いなく、衛生をとても気にする時期が来るだろうし、
ハエ取り紙かそれに代わる最新の類似商品は必要なものになると思う。
色々と考えを巡らせてみるが、日本では市場がほぼ消えたといえる
ハエ取り紙ビジネスの市場は、地球規模で見たら無限大であることは間違いない。


実は色々と調べていくとハエ取り紙同様、日本ではすでに市場が消えている
蚊帳もアフリカで拡大している。
日本人ビジネスマン、アフリカで蚊帳を売る」(東洋経済新報社)という本を読んだ。


大企業の住友化学のアフリカでの蚊帳ビジネス奮闘記だが、舞台はケニアである。
中小やベンチャーでもBOPビジネス(Bottom Of Pyramidの略。貧困層ビジネスのこと)
ヒントにもなるし、アフリカなどの新興国市場の攻め方の勘所が満載だ。
特にこの作品に縁を感じるのは、私自身が近い体験をしているからだ。
日本とベトナムとケニアの連携におけるビジネスの構図の中で蚊帳ビジネスが
展開されているからでもある。また、今の東南アジアビジネスと共通するところも
多々あり、ビジネスの重要ポイントは的を射ている。


アフリカなどでは生死にもかかわるマラリア対策が深刻である。
すでに無償供与も含めて、多くの蚊帳がアフリカで使われている。
日本では使うことがほとんどなくなった蚊帳であるが、
日本のメーカーだけでなく、他の外資や地元メーカーも含めて
激戦を繰り広げている商売のひとつであることに驚く。
必要なものが売れる典型例であろう。


では今後、爆発的なイノベーションを誘発するだろうICT関連はどうだろうか?


ICTの特徴は世界同時に拡大する可能性を秘めるテクノロジーである点だ。
それだけに、アフリカなどでは日本人が知れば驚く使われ方やサービスが広がっている。
特に携帯電話の普及には驚かされる。アフリカでの携帯電話の普及は、
私たちの想像以上に速いし、低所得者層までも広がっている。
携帯電話の普及は世界中で同時に進んでいるといっても過言ではないのである。
しかし、先進国ではすでに携帯電話ビジネス(今はスマホビジネスと
呼んだ方が正しいか・・・)は余計なものを売る商売に変貌している。
ゲームを筆頭にさまざまなものに巧みに課金の仕掛けが仕組まれている。
しかし、アフリカでは生活に必要なものとしてまだまだ普及の余地はあるし、
新サービスが生まれるだろう。


まず最大のメリットは固定電話の代替となっている点にある。
もちろん、貧富の差や国力や国の政策によって携帯電話の普及する
タイミングには差があるが、現実的には、世界中どこでも固定電話を
敷設するよりも、携帯電話は低コストで普及が可能だ。
携帯電話が普及するとアフリカなどの途上国での生活は大きく変化する。
固定電話もなく通信手段がなかった生活環境に携帯電話が登場すると
日本では考えられない用途が生まれる。


もう1冊紹介したい。「アフリカ社会を学ぶ人のために」(世界思想社)だ。


この本の中でとても興味深いのが、職探しと銀行のお金の引き出しや
支払いにおける携帯電話の活用だ。ATMなど存在しないし、銀行口座を
開設できない人たちは数多く存在する。そんな人たちに向けて、通信会社が
携帯電話を使って送金サービスなどを提供している。


アフリカにおいて次に大きく普及するだろうと予測できるのが、
インターネットを使っての生活シーンの変化だろう。
まさに「水牛とスマートフォン」の世界である。
また、日本で大流行りのドローンネタもアフリカでは尽きることがない。
日本国内の宅配代わりにドローンという発想はとても貧困だし、
ガラパゴス的でもある。そもそもそんなことになったら、日本の都会は
空の景観が劣悪になり誰も住みたくはないだろう。日本でも交通インフラの
メンテナンスなどには利用価値は大きいが、アフリカこそドローンの利用価値は
最大化すると思われる。


商売の原点を忘れかけている日本人こそ原点回帰が必要だ。
だからこそ、アジアやアフリカでのビジネスから学ぶところが
数多くあると痛感している。

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(近藤 昇 著 2016年10月15日発刊
もし、自分の会社の社長がAIだったら?
PARTⅡ 企業経営への提言-【提言20】必要なものを売る商売と余計なものを売る商売 より転載)