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注目されるシニア起業の現実と課題、そして膨らむ期待

最近、新聞記事などで「シニア起業」の話題が増えてきた。
つい先日となる10月17日・日本経済新聞朝刊の9面で、
シニア起業家のデータが一面で説明してあった。
弊社はなにかとシニアとかかわってビジネスをすることが多い。
特に「もし波平が77歳だったら?」を昨年末に発刊して以来、
急速にシニアの方々とのお付き合いが深まっている。

 

 

 

 

そういう観点から見て、この新聞の記事は今の私の実感と近いものがあるが、
誤解を招く記事でもある。
見出しには、「起業家、3人に1人はシニア」とある。
日本経済新聞だからビジネスに関心がある人が読者の中心だろうが、
実際に普段から起業家の動機や起業の年齢に関心を持っている人は少ないだろう。
少し記事から引用して、私の考えをお伝えしたい。
 
この記事の定義ではシニアは60歳以上としている
(ちなみに、弊社では65歳としている)。
シニアが起業家全体に占める割合は1982年の8.1%に対して、
2012年には32.4%に達する。実に4倍になったと伝えている。
「中小企業白書」がベースになっているのでデータの信憑性は高いだろうが、
実際の感覚とはズレを生みやすい表現だ。
詳細は電子版でと誘導しているので、ここにはもっと深い内容が
書かれているのかもしれないが、私はこの紙の記事について意見を述べたいと思う。
 
実は世間の人の大半が、『起業家=若い』と思っている。
実際、セミナーなどで聴講者に尋ねてみることがあるが、
そもそもの日本の起業する年齢の平均年齢は随分前から40歳を超えているのだ。
そして、当然に日本全体の高齢化に連れてその年齢も上がっている。
ちなみに1998年時点で開業時の平均年齢は40.2歳。
つまり、起業の高齢化はずっと以前から続いていることなのだ。
にもかかわらず、特にこの10年はICTベンチャーなどで20代の経営者が
メディアで目立ってきたため、「起業家=若い」という印象が強くなっている。
企業経営を現実的に考えても、ある程度企業で仕事を覚え、
組織での活動を経験し、社会のことも知った上で起業するのがベストで、
そう考えると40歳前後というのは理想的な年齢ではないかと思う。
そういう背景を加味して、シニアの起業のことは考えるべきであると思う。
この1982年と2012年のデータの比較だと30年間のギャップがある。
相対的に、今の60歳は30年前であればもっと下だろう。
冒頭で紹介した拙著「もし波平が77歳だったら?」で考えてみると、
55歳くらいの感覚に近い。
その前提でいくと、今の60歳以上に相当する30年前の起業は8.1%よりも
多くなるだろう。そう考えると、シニア起業が突然増えたのではなく、
もともと自然に増えてきたと考えた方がしっくりくる。
 
高齢化は随分前から予想されていたとはいえ、実感できるまでに時間的な差が生じる。
急速に進む高齢化時代に今のシニアの方自身は「こんなはずじゃなかった」と
思っているかもしれない。
なぜならば、定年後の人生の時間が長くなったのと同時に、その生き方を
考えなければならなくなったからだ。
これは「何をするのか=生きがいの充実」というシニアにとって切実なテーマだ。
残りの人生の生き方が問われるようになった。
 
この記事にも開業動機がまとめられていた。
1位の51.1%が「仕事の経験・知識や資格を生かしたかった」だ。
2位、3位は36.2%と同率で、それぞれ「社会の役に立つ仕事がしたかった」
「年齢や性別に関係なく仕事がしたかった」である。
なるほど、私が日々シニアの方と接していると感じることに近い。
シニアの中には、年金などで悠々自適、充実した人生のためのみ起業する方も
いるだろう。
しかし、私が実際接している方々は次のような動機の方が多い。
 
・生活の糧にするため少しでも稼げたら
・いままで好きなことをして生きてきたから社会に貢献を
・一度きりの人生、変革を起こして世の中のために貢献したい
 
こんな方々と日々お仕事をさせていただいている。
ここで何人か紹介したい。
 
まずは岩本弘さん、72歳。

 

 

挑戦しよう!定年・シニア起業」(カナリアコミュニケーションズ刊)の出版でご縁ができた。
岩本さんは、新聞記者などを経て70歳直前の2013年に株式会社メディア通商
立ち上げた。保険販売などを業として始めたが、本を出版したのがきっかけで、
友人・知人から起業のコツを教えてほしいと依頼が殺到。
今では、シニア起業塾を展開するとても発想が斬新でアグレッシブな方である。
 
次の方は、福田哲夫さん、77歳。

 

根っからのエンジニアでかつてはビデオゲーム開発などで一世を風靡した。
76歳の昨年に一念発起。
メトロネット株式会社を設立し、またも異業種の医療業界に参入した。
問診ナビ」というセルフメディケーションをサポートとする仕組みを開発。
業界改革に燃える福田さんはお会いするたびに刺激を受ける。
情熱は燃え尽きることはない。
 
そして、小山雄二さん、67歳。

 

小山さんはもともと独立していて、いわゆる定年組ではない。
高度成長期の日本の建築、都市計画の分野で存在感を発揮し、活躍されてきた実績を
アジアで活かすべく、私がお願いして、数年前にベトナムに来ていただいたのである。
今はベトナムの建設業界でベトナム企業、日本企業の橋渡し役や資本提携などに
注力されている。
「アジアでもう一花咲かせましょう」の代表選手のひとりでもある。
 (以前の執筆コラム 「建築家のベトナム雑感」)

最後に、堀昭保さん、67歳。

 

先日ハノイでお会いしたが、ますますパワーアップされていた。
元商社マンで「ザ・ラスト・商社マン」と呼びたくなる高度経済成長期真っただ中の
タフなビジネスパーソンだった方である。
40年以上のベトナム経験で、今ではベトナム語も普通に話される。
最近もご自身が創業時から支援したある建設デベロッパーのオーナーからの依頼で、
とても豪華な日本邸宅の庭園を金沢の造園会社と組んで施工中である。
ビジネスアイデアを豊富にお持ちで、ベトナムの発展には欠かせない存在になっている。
 
この4名の方以外にも、70歳超えて起業されるなどアグレッシブな方は
まだまだおられる。どなたにも共通事項がある。
好奇心旺盛で、話が尽きることなく広がる。
会話がヒートアップすると、思わず、「いくつまでやられるのですか?」
と私がつい聞いてしまうほど、パワフルな方々なのである。
 
シニアに限らず、日本の起業は先進国の中でもハードルが高い国である。
その最大の原因は起業時の資金調達の債務保証問題である。
その縛りについてはいまでも劇的には変わってはいない。
人生の最終章に近いシニア起業では資金リスクは避けないといけない。
年齢的に創業と同時に事業継承を考えないといけないケースも多い。
健康に関しても不安がつきまとう。
シニア起業は、若者の企業と比べて、特にさまざまなセーフティーネットが
必要だと思う。
そういう意味で、政治がしっかりとフォローする意向であるのはとても心強い。
しかし、本当に有効な仕組みができるかには疑問があるが・・・。
起業は基本的には個人の問題ではあるが、シニア起業は社会の問題であると考えている。
国民皆が真剣に考えておくべき課題であろう。
 
シニア起業のビジネス分野では、アナログビジネスが主軸で強みが発揮できることが多いが、
今の経営を取り巻く環境ではICT革命が劇的に進行中である。
シニアにとっては苦手意識の強い部分で、
ICT活用をフォローするようなサポートなども必要になるだろう。
記憶に頼って日々の経営を遂行していくとリスクが広がっていく恐れもある。
PDCA等の業務管理を整備するためにも、記録保全の仕組みなどを導入する
必要も出てくるだろう。
以前のブログ(「インターン」がシニアが主役の時代のトリガーになる!?)で紹介した

映画「マイインターン」では、ネットを活用したファッションビジネスを展開する

若手女性起業家を男性シニアがサポートする構図だ。
このモデルは起業とは別でシニア全般の活用の場という意味で大いに参考になる。
シニア起業家を支える若手のサポーター、つまり「マイインターン」の逆パターンも
とても重要である。
 
また、つながることもとても重要である。
シニア起業家同士のつながり、若手とのつながり、海外の起業家とのつながり。
来日する留学生と日本の起業家が連携する組み合わせも面白い。
いずれにしても、シニアビジネスの特徴は小規模で多様性がある点。
そして、社会貢献型、公益性ビジネス志向が強い。
世界の21世紀ビジネスの在り方に一石を投じるどころか、
リーダー役になっていくことに期待したい。
そして、その取り組み、活動については私たちも連携していく予定だ。
シニア起業を支援できる仕組みを構築していきたいと思う。

 

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